今回は、当院で最近実際にあった出来事をご紹介したいと思います!
その内容は、”疲労骨折”に関するエピソードです。
約1か月ほど前になりますが、中学生の学生さんで『足に痛みがある』との訴えでご来院されました。よくよく問診で確認すると、足の甲の部分に痛みがあるそうでした。
観てみると、確かに反対脚の同じ個所と比べ、少し腫れがありました。
痛みが出始めたのはいつか聞くと『先週の木曜日』とのことでした。当院に来院したのは月曜日でしたから、4日ほど前に痛みが出だしたことになります。
次に、痛みが出るようなきっかけがあったか確認しましたが、『特に思い当たるような出来事はない』との事でした。この時点で、外傷ではなく、亜急性に発生する損傷(スポーツ障害)ということがわかりました。
続いて、病院を受診したか確認すると、『痛みの出た翌日に近くの整形外科に行ってレントゲンを撮って、「骨には異常ないので、また来たかったら来てください」と言われた(※患者さんの言った通りに記載)』との事でした。
『レントゲン上では問題ないのか…』と思いつつ、他の検査(触診や動作による痛みの出方など)を進めていくと、”骨折はない”という割には腑に落ちない症状がみられました。
そのひとつは”叩打痛”です。
”叩打痛”とは『打診』時にみられる『介達痛』のひとつで、症状のある患部から離れた場所を軽く叩き振動刺激を加えることで、患部に痛みが出るかどうかを確認する方法です。
今回は触診で右足の『第3中足骨』という骨の周囲に痛みがあることを確認していましたので、その『第3中足骨』の近位(足首寄り)に叩打刺激を加えてみると、…、患部に痛みが出ました。
この時点では、まだ『疲労骨折』は数ある選択肢の一つに出てきただけでしたが、次の症状でさらに疑いが強くなりました。
もう一つの症状は、同じく『介達痛』のひとつである”軸圧痛”です。
これは、主に骨折の鑑別(判断)のひとつとして行われる検査で、骨の長軸に垂直に圧を加えて痛みが出るか確認するものです。
先程の”叩打痛”との一番の違いは、”叩打痛”はある程度の腫れや炎症症状がある場合には、骨に損傷がなくても、その周辺にある軟部組織に損傷がある場合は痛みを感じることがあるため、骨折によって痛みが出てるのか、それとも骨の周辺の軟部組織に損傷があって痛みが出てるのか、もしくは骨も軟部組織も両方とも損傷しているのか、今ひとつハッキリしません。
しかし、正しく”軸圧痛”の検査ができれば、この検査では軟部組織を損傷していたにしても痛みを誘発する可能性はかなり低いため、骨折があるのかどうかを確認するための情報として高い信頼性のある検査法です。
『骨の長軸に垂直に圧を加える』って言うと、同業者の先生方の中には簡単なように思っている方もいるかもしれませんが、目標である『第3中足骨』を解剖学的に正しく触診ができないと間違った圧をかけてしまい、軟部組織による痛みと勘違いしてしまい『疲労骨折』を見落とす原因にもなります。
この時点で『疲労骨折』の疑いは約60%くらいになっていました。
診察が終わった時点で診察が終わった時点で、患者さんに『疲労骨折』の可能性があることを伝え、2週間後にもう一度レントゲンを撮りに行くように伝えました。
私たちの治療は最悪の場合を想定して慎重に行っていく必要があるため、『疲労骨折』の可能性がある以上、それに対応した治療を進めていくべきだと当院は考えています。
この患者さんも学校の体育を含め、日常生活でも走ったりすることを禁止し、当然クラブ活動(サッカー)も中止して、足に負荷のかからない運動だけを許可しました。
ちなみに、治療はLIPUS(低出力パルス超音波)という、骨をはじめとする損傷を受けた組織の治癒を速めてくれる治療器を用い、骨折しているであろう部位に負荷が加わりにくい足をつくるための運動療法、そしてテーピングによる免荷を行いました。
この中でも特に大事なのが”足をつくる”ということです。
『疲労骨折』が起こるには、起こるだけの理由があります。ただ安静にして自然に骨折が治るのをただ待つだけでは、『疲労骨折』を起こすメカニズムは残ったままですので、再発する可能性があります。
当院では、治療の段階で再発防止にも取り組んだ治療を行います。
さて、ここでひとつ疑問が湧きませんか???
そう、レントゲンです。
・整形外科でレントゲンを撮り、「骨に異常はない」と言われた
・(明日や明後日ではなく)2週間後にもう一度レントゲンを撮りに行くように伝えた
これにはちゃんと理由があります。
一度に強い外力が加わり起こる普通のポッキリと折れる骨折と違い、『疲労骨折』は弱い外力が蓄積されて発生しポッキリと折れません。折れるというよりかは、きしんで細かなヒビがたくさん入ったような状態です。そのためレントゲンでは描出されません。
ただし『疲労骨折』も骨折である以上、当然治って(修復されて)いきます。その過程で出現する仮骨というものが、疲労骨折が発生してからおおよそ2~3週間後に出てきてはじめて、レントゲンに骨折を修復している現象として映しだされます。
さて、治療を継続しながら2週間経過し、再度別の病院へレントゲンを撮りに行ってもらいました(※同じ整形外科だと、仮に疲労骨折が見つかった場合は誤診だったことになりますし、そもそも患者さんの年齢からして、一度骨折はないと判断した子供さんに、短期間に放射線を被爆させるレントゲンをもう一度撮るのは常識的にありえないため。)
結果はやはり『第3中足骨疲労骨折』でした😃
ここで喜んでしまうのは少し不謹慎にも思えますが、早めに骨折の可能性があることを察知し、その対応ができたことに対する喜びです!早めに対応ができれば、それだけスポーツ活動の復帰も早くできます!
人間は生きていく中で、その情報の約80%を視覚により得ていると言われます。また、医者といえど人間です。いつも完璧に、というわけにはいきません。
それだけにレントゲンやCT、MRIなどの、医療の歴史においては最新の技術である画像検査による情報によって、ちょっとした判断ミスをしてしまうことだってあります。
画像検査が最新の技術なら、”軸圧痛”などの打診や、触診などは古典的な技術です。
ですが、それらは、画像として見つける技術がなかった時代に磨かれ受け継がれてきた、確かな技術です。
『接骨院では画像検査できないから、それ以外の方法でやるしかないだけでしょ』と思う方もいるかもしれませんが、今回のように画像検査で発見できないものを見つけられる場合だってあります。
また、『疲労骨折』も含めスポーツ障害は主に身体の機能的な問題により発生し、機能は画像で映し出せることはあまりありません。
だからこそ、スポーツ障害を診るのは難しく、経験が必要になります。
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